プロフィール
稲葉 可奈子 先生 Inaba Clinic院長
京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得。関東中央病院産婦人科 医長を経て、2024年7月よりレディースクリニックInaba Clinicの院長を務める。四児の母。産婦人科専門医、みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト代表。産婦人科診療の傍ら、子宮頸がん予防や性教育、女性のヘルスケア、SRHRに関する発信や社会活動にも尽力。※プロフィールは記事公開当時のものです。
この記事でわかること
✔︎ 妊娠中でも上の子を抱っこしていい?
✔︎ 妊娠初期・中期・後期で変わる注意点
✔︎ 抱っこは何kg・何分までなら大丈夫?
✔︎ お腹の張りや抱っこ補助アイテムの注意点
「ママ、抱っこ」
妊娠中でも、上の子はいつも通り抱っこを求めてきます。
抱っこしてあげたい。でも、お腹の赤ちゃんのことも心配。
「妊娠中に抱っこしても大丈夫?」
「重いものを持つと、流産や早産につながらない?」
「何kgまでなら抱っこしていいんだろう?」
そんな疑問について、産婦人科医であり、4人のお子さんを育てる稲葉 可奈子先生に伺いました。
妊娠中の抱っこで大切なのは、「抱っこしていい・ダメ」と一律に考えることではなく、そのときの妊娠経過や身体の状態を見ること。
妊娠初期から後期まで、実際の診療で妊婦さんから相談を受けることも多いという稲葉先生に、詳しく聞きました。
※妊娠中の経過や体調には個人差があります。医師から安静などの指示を受けている場合や、出血・腹痛など気になる症状がある場合は、かかりつけの産婦人科医にご相談ください。
「抱っこしちゃダメ、ということではないです」
―まず一番気になるところなのですが、妊娠中に上の子を抱っこしても、基本的には大丈夫なのでしょうか?
稲葉先生:
「抱っこしちゃダメ」ということはないです。
妊娠の経過や体調など、状況的に大丈夫であれば全然問題ないというのが総論としての答えですね。
ただ、妊娠初期なのか、中期なのか、後期なのかによっても身体の状態が違うので、時期によって少し分けて考えた方がいいと思います。
妊娠初期。「抱っこしたから流産した」と考えるものではありません
―妊娠初期は特に、「上の子を抱っこしたら流産につながるのでは」と心配される方も多いと思います。
稲葉先生:
初期はまだお腹も大きくないですし、体調に問題がなければ、抱っこしていただいて大丈夫です。
初期の流産は、何かをしたから起きるというものではなくて、お母さんと赤ちゃんの染色体などの要因で、それ以上妊娠が進めなかったというケースがほとんどです。
なので、「抱っこしたから出血して流産した」という因果関係があるわけではありません。
ただ、これはあくまで医学的な話です。
人の気持ちはまた別ですよね。
もし何かあったときに、「あのとき抱っこしたからじゃないか」「しなかったら大丈夫だったんじゃないか」と自分を責めてしまいそうなのであれば、無理にしない方がいいと思います。
医学的にどうかということと、自分がどう感じるか。その両方を考えて判断していただくのがおすすめです。
お腹が大きくなってきたら、正面からの抱っこは少し工夫を
―妊娠中期になって、お腹が大きくなってきたらどうでしょうか?
稲葉先生:
中期になってくると、普通に正面から抱っこすると、お腹に圧がかかることがあります。
すでに切迫早産と言われている方や、子宮頸管が短いと言われている方、出血がある方などは、主治医からいろいろ注意を受けていると思うので、その指示に従ってください。
あとは、抱っこするとお腹が張るという方も、やっぱりちょっと避けた方がいいですね。
―特にそういった症状がない場合は、抱き方を工夫する方法もありますか?
稲葉先生:
そうですね。
お腹に直接圧がかからないように、少し斜めに抱っこしてあげるとか。
お子さんの大きさにもよりますけど、お腹に圧がかからない向きで抱っこしてあげるというのはありだと思います。
後期は、座って膝の上に乗せてあげるのでもいい
―さらにお腹が大きくなる妊娠後期はどうでしょう?
稲葉先生:
後期になってお腹がかなり大きくなってきたら、基本的には座って膝の上に乗せてあげるとか、そういう形でもいいと思います。
上のお子さんの「甘えたい」という気持ちを満たしてあげる方法は、立って抱っこすることだけじゃないですよね。
―確かに、抱っこを求めているというより、「ママに甘えたい」ということもありそうです。
稲葉先生:
そうですね。
あと、今はママがどうするかという話をしていますけど、こういうときこそパパの出番です。
ママが何とかしないと、という発想じゃなくて。
ママがしてあげられることはしてあげて、抱っこや肩車、おんぶはパパにたくさんしてもらったらいいと思います。
「10kgまで」「1日30分まで」のような基準はありません
―Hugooにも、「何kgまでなら抱っこしていいですか?」「1日何分までなら大丈夫ですか?」という質問がよく届きます。こうした目安はありますか?
稲葉先生:
目安はないです。
「10kgまでならOK」とか「何分までならOK」というものではないですね。
―やっぱり数字で決めるものではない?
稲葉先生:
そうですね。
ご本人が抱っこしていてお腹が張らないか。
妊娠中は疲れやすかったりもするので、体調的につらくないか。
体調に問題がなくて、お腹も張らないのであれば、特に「○分まで」という制約があるわけではありません。
自分の身体と相談する、という感じですね。
「お腹の張り」はどう見分ければいい?
―先ほどから「お腹が張る」という言葉が出ていますが、自分で判断するのが難しい方もいると思います。
稲葉先生:
ひとつの見分け方としては、お腹全体がカチッと硬くなるかどうかです。
胎動の場合は、赤ちゃんが一部分を押していて、一箇所だけ硬く感じることがあります。
一方で子宮が収縮している場合は、お腹全体が硬くなります。
ただ、これはご本人が見分けるのは難しいこともありますし、「これで合っているかな」と自信がないこともありますよね。
なので、心配なときは、かかりつけの産婦人科で診てもらうのが一番間違いないと思います。
抱っこ紐やヒップシートは、「お腹を圧迫しないこと」が大切
―抱っこの負担を減らすために、抱っこ紐やヒップシートなどの補助アイテムを使う方もいます。妊娠中に使うことについてはどう考えますか?
稲葉先生:
身体を支える部分がお腹を圧迫しないのであれば、いいと思います。
圧迫せずに抱っこの補助になって、身体への負担が減るのであれば、特に妊娠初期など、お腹がまだそれほど出ていない時期なら使っていただいて問題ないと思います。
―使うときに一番気をつけた方がいいことは?
稲葉先生:
やっぱり、お腹に圧がかかっていないか、締め付けてしまっていないかですね。
締め付けていないつもりでも、抱っこをしていてお腹が張ってくるようだったら、やめた方がいいです。
あと、お腹が大きくなってきたら無理に使わず、妊娠中こそベビーカーを活用するのもいいと思いますよ。
「無理しなくていいんじゃない?」と、私はよく伝えています
―実際の診療でも、「妊娠中に上の子を抱っこしていいですか?」と聞かれることはありますか?
稲葉先生:
あります、あります。
そのときは「お腹が張らなかったらいいよ」とお話しすることが多いですね。
あとは、そこそこお腹が大きくなっている方だったら、
「無理しなくていいんじゃない?」
とお伝えしています。
抱っこしてはいけないという話ではなくて、身体が大変なときにまで、ママが頑張らなくていいと思うんです。
抱っこすることも、頼ることも。どちらも親子のための選択
妊娠中の上の子の抱っこに、一律の正解はありません。
「10kgまでなら大丈夫」
「1日30分までなら大丈夫」
という数字があるわけでもありません。
稲葉先生が繰り返し話していたのは、
お腹が張っていないか。
体調がつらくないか。
お腹を圧迫していないか。
そして、無理をしないことでした。
抱っこできる日は、抱っこする。
少しつらければ、座って膝の上に乗せる。
身体がしんどい日は、パートナーに頼る。
お出かけにはベビーカーを活用する。
「抱っこしてあげなきゃ」と頑張りすぎなくても、上の子への愛情の伝え方はひとつではありません。
妊娠中だからこそ、その日の身体と相談しながら、親子にとって無理のない方法を選んでいけたらいいのかもしれません。