プロフィール
稲葉 可奈子 先生 Inaba Clinic院長
京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得。関東中央病院産婦人科 医長を経て、2024年7月よりレディースクリニックInaba Clinicの院長を務める。四児の母。産婦人科専門医、みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト代表。産婦人科診療の傍ら、子宮頸がん予防や性教育、女性のヘルスケア、SRHRに関する発信や社会活動にも尽力。※プロフィールは記事公開当時のものです。
仕事もしたい。
子どもとの時間も大切にしたい。
できれば、家もきれいにしておきたいし、ごはんもちゃんと作りたい。
子育てをしていると、いつの間にか「全部ちゃんとやらなきゃ」と思ってしまうことがあります。
今回お話を伺ったのは、産婦人科医として働きながら、4人のお子さんを育てる稲葉可奈子先生。
そんな稲葉先生が子育てで大切にしているのは、意外にもとてもシンプルなことでした。
「毎日、楽しく元気に過ごしてくれたら、それでいい」
仕事も、家事も、育児も。
全部を完璧にしようとするのではなく、「自分は何を大切にしたいのか」を決める。
忙しい毎日の中で、少し肩の力を抜くためのヒントを聞きました。
―先生は4人のお子さんを育てていますが、子育てで大切にしていることはありますか?
稲葉先生:
子育てという意味では、とりあえず毎日楽しく、元気に過ごしていることですかね。
目標が低いと言ったらあれなんですけど。
今って、皆さんすごく一生懸命ですよね。
それはすごくいい意味でなんですけど、「こう育てたい」とか「こういうこともしてあげたい」とか、割と求めるものが多いと思うんです。
でも私は、とにかく大きな事故なく、元気に育ってくれたらそれでいい、くらいの気持ちでいます。
まずは毎日楽しく、笑顔で過ごしてくれたらいい。
もちろん、お行儀が悪かったり、宿題をやってなかったりしたら怒りますけどね(笑)。
「完璧」を目指さない
―先生はお仕事もとても忙しいと思います。仕事と子育てを両立するときに意識していることはありますか?
稲葉先生:
やっぱり、完璧を求めないことですね。
掃除、料理、洗濯などの家事、
それに育児があって、仕事もある。
全部を100%カンペキにやろうと思うと、現実的には結構無理なんですよ。
だから私は、優先順位をつけることをおすすめしています。
全部やろうとすると、「全部できていない自分」になってしまう
稲葉先生が「優先順位を決めた方がいい」と話すのには、理由があります。
稲葉先生:
なんとなく、「こういう家にしたい」「こういうママでいたい」「こういうごはんを作りたい」「子どもにはこうしてあげたい」って、全部に理想を持ってしまうじゃないですか。
そうすると、全部を理想通りにできなかったときに、
「私、何にもちゃんとできてない」
みたいな感覚になってしまうんですよ。
でも、冷静に考えると、全部を完璧にこなすのって現実的にはかなり難しい。
まずは「全部をカンペキにこなすのは現実的に無理」
と潔く割り切って、その上で、
「自分は何を一番大事にする?」
って、先に決めた方がいいと思うんです。
「家が散らかってても、人間は死なない」
では実際に、稲葉家ではどんなふうに優先順位を決めているのでしょうか。
稲葉先生:
たとえば、
「家がきれいなことが大事だから掃除はちゃんとする。でも毎日ごはんを作る時間はないから、そこは宅配やミールキットを使う」
でもいいと思うんですよ。
何を大切にするかは、家庭によって違います。
うちの場合は、私は仕事から帰ってちゃちゃっとごはんを作るのがそんなに苦じゃなくて、ちょっとした息抜きにもなるので、ごはんは毎日作っています。
その代わり、
「多少散らかってても人間は死なない」
って言っています(笑)。
本当は私もきれいな家に住みたいですよ。
でも毎日片付けて掃除して、という時間は物理的にない。
だったら、そこはもう潔く「うちはこれはカンペキには無理」と割り切る。
そうすることで気持ちがラクになります。
「できなかったこと」ではなく、「これはできている」と思えるように
―最初から「ここはなるべくやる」「これは後回しでもいい」と決めてしまうんですね。
稲葉先生:
そうですね。
優先順位を決めておくと、
「これはちゃんとやってる」
って思えるんですよ。
それだけでも自己肯定感が上がると思います。
何も決めずに全部やろうとすると、なんとなくずっと、
「理想の自分になれてない」
というネガティブな感覚になってしまう。
でも、本当は全部できていないわけじゃないんですよね。
自分が大事だと思っていることができていれば、それでいいと思います。
パパは「サポート役」ではなく、子育ての主役
今回のインタビューでは、妊娠中の上の子の抱っこについて伺う中で、パートナーとの関わりについても話が広がりました。
妊娠中、お腹が大きくなって抱っこが難しくなってきたとき、稲葉先生が話していたのが、
「こういうときこそ、パートナーの出番」
ということ。
―妊娠中は、パートナーの関わりも大切ですよね。
稲葉先生:
どうしても子どもって、「ママ、ママ」になりがちじゃないですか。
だからこそ、妊娠中などママに少し負荷がかかっているときは、パパにとってはチャンスだと思います。
抱っこしたり、肩車したり、おんぶしたり。
そういう時間が増えると、パパとの関係も深まっていくと思います。
「パパはサポート」じゃなくて、「同僚」
そして、稲葉先生から印象的な言葉が出ました。
稲葉先生:
普段から、パパも「サポート」じゃないんですよ。
同僚です、同僚。
―「サポート」というと、主役が別にいる感じになりますよね。
稲葉先生:
そうそう。
パパも主役です。
子育てはママがメインで、パパがそれを手伝うということではないですよね。
優先順位を考えるようになったきっかけ
―先生が「優先順位をつける」という考え方になったのは、お子さんが生まれてからですか?
稲葉先生:
多分、もともとそういう思考回路ではあったと思うんです。
でも、大きかったのは一人目を産んだときかもしれません。
私は医師になってから一人目を産んだんですけど、それまではほぼ毎日のように当直しているような生活だったんですね。
でも、子どもが生まれたら、それは現実的にできない。
そこで初めて、
「じゃあ、自分は何を優先する?」
という選択を迫られたんだと思います。
やりたいことはいろいろある。
でも全部はできない。
だったら、その中で自分にとって一番実現したいことは何なのかを考える。
そういう選択を積み重ねてきたんだと思います。
全部はできなくても、ちゃんとやっている
子育てをしていると、
もっと子どもと遊んであげたい。
もっとちゃんと料理したい。
部屋もきれいにしたい。
仕事でも結果を出したい。
気づけば、「できていないこと」ばかりが目に入ってしまうことがあります。
でも、稲葉先生の言葉を聞いていると、少し見方が変わります。
全部を完璧にする必要はない。
まず、自分や家族にとって何が大切なのかを決める。
そして、それができていたら、
「今日はこれができた」
と思っていい。
家が少しくらい散らかっていても。
今日のごはんが宅配でも。
誰かに頼る日があっても。
子どもが今日も元気に笑っている。
それだけで、十分できていることはあるのかもしれません。
「全部ちゃんとやらなきゃ」と思ったときこそ、
「私は、何を一番大切にしたいんだろう?」
そう考えてみる。
それが、仕事も子育ても続いていく毎日を、少しだけ心地よくする方法なのかもしれません。